木造家屋の解体と新築基礎工事、この2つを「順番に」進めるのが従来の常識でした。しかし現場を見てきた経験から言えば、条件が整えば同時並行で進めることで、工期を1.5〜2ヶ月短縮し、仮設費や重機コストを20〜30%圧縮できる余地があります。ただしこの手法には敷地条件・安全管理・契約設計の3つの壁があり、見積書の読み方を誤ると「短縮したのに費用は変わらない」という結果にもなりかねません。本稿では建築業経営者や新築予定者の方に向け、同時施工の実務ポイントを整理します。
木造躯体解体と新築基礎工事の同時施工で得られる時間短縮と費用効果
木造躯体解体と新築基礎工事を同時施工すると、工期を1.5〜2ヶ月短縮でき、仮設費・機械費を概ね20〜30%削減できますが、現場条件と安全管理が成立の前提になります。
従来の木造家屋建て替えでは、解体工事が完了してから基礎工事の現場調査・地縄張り・地盤改良・掘削へと進みます。この段階的な工程には合理性がある一方で、現場管理費や仮設費、重機の運搬費が二重に発生する構造的な非効率も抱えています。とくに延床30〜40坪程度の木造住宅の場合、解体に3〜4週間、基礎工事に4〜5週間かかり、間の段取り期間を含めると2ヶ月半から3ヶ月の工期を要するのが一般的です。
同時施工では、この工程の一部を重ねることで全体工期を圧縮します。現場を見てきた経験から言えば、無理な重複はかえって事故リスクを高めるため、重ねられる工程と重ねてはいけない工程の見極めが最も重要です。以下に通常工程と同時施工の比較を示します。
| 施工パターン | 総工期 | 現場管理費 | 仮設費削減 |
|---|---|---|---|
| 通常(段階的) | 概ね4ヶ月 | 基準額 | 0% |
| 部分同時施工 | 概ね3ヶ月 | −10%程度 | 10〜15% |
| 全面同時施工 | 概ね2.5ヶ月 | −20%程度 | 25〜30% |
並行施工で実現する工期短縮の仕組み
解体工事と基礎工事には、理論上重ねられる期間が3〜4週間ほど存在します。具体的には、母屋の解体が概ね完了し、附属建物や外構の撤去、廃材の分別搬出が続いている期間中に、更地部分から基礎の掘削・砕石敷き・捨てコンクリート打設へと着手できる場合があるということです。この重複期間を意識的に設計することで、全体の工程表が大きく圧縮されます。
費用削減の内訳:仮設費・重機リース・現場管理費
費用削減の中身を分解すると、仮設足場・仮囲いの共有化、重機の稼働率向上、現場所長の兼務化、電気水道の仮設共用が主な項目です。とくに仮囲いや仮設トイレ・仮設電源は解体と基礎工で同じものを流用できるため、重複コストがそのまま浮きます。ただし安全管理を強化するため、現場監督や誘導員の増員が必要になるケースもあり、削減額から差し引く必要があります。同時施工の実例や事業内容については、業務内容・施工事例はこちらからご覧いただけます。
同時施工が実現できる現場条件と制約要因
敷地面積150坪以上、周辺離隔距離3m以上、地盤が安定している現場で同時施工が実現しやすく、廃棄物の一時保管スペース確保と近隣対策が重要条件になります。
同時施工は「やりたい」と思って必ずできるものではありません。現場を見てきた経験では、条件を無視して強行した結果、廃材の搬出が滞って基礎工事が止まる、あるいは近隣からの苦情で作業時間が制限されるといったトラブルが発生します。事前調査で現場条件を客観的に判定することが、同時施工成功の第一歩です。
とりわけ木造家屋の解体では、木材・瓦・石膏ボード・断熱材・建具など多品目の廃棄物が発生し、それぞれ分別して積み込む必要があります。この分別ヤードを敷地内に確保できるかどうかで、同時施工の可否は大きく変わります。
| 現場条件 | 同時施工可否 | 対応策 |
|---|---|---|
| 敷地150坪以上 | 可能 | 基本的に実現可 |
| 敷地100坪以下 | 困難 | 段階施工を推奨 |
| 密集地(離隔2m以下) | 要慎重 | 時間規制・騒音対策強化 |
| 軟弱地盤 | 要検討 | 地盤改良期間の織り込み |
敷地面積と廃棄物保管スペースの確保
木造躯体解体で発生する廃棄物量は、目安として坪あたり3〜5トン程度です。延床100坪の木造家屋であれば300〜500トン規模の廃棄物が出る計算になり、これを一時的に仮置きするスペースが敷地内に必要になります。同時施工中に毎日搬出する運用も可能ですが、その場合はダンプの出入り回数が増え、近隣への影響と交通誘導員の人件費が跳ね上がります。分別ヤードと基礎工事エリアを明確にゾーニングできる敷地であることが、実務上の最低条件です。
地盤状況と基礎工事の施工時期制約
軟弱地盤の場合、地盤改良に30〜45日ほど要することがあり、解体工事と基礎工の重複可能期間が実質的に狭まります。専門的な観点から重要なのは、事前の地盤調査(スウェーデン式サウンディング試験など)で改良工法と工期を確定させ、そこから逆算して解体着手日を設計することです。また梅雨や台風時期は掘削面の崩れや型枠への影響が出やすく、同時施工の効率が落ちるため、着工時期の選定も工程設計の一部として扱うべきです。
見積もりの読み方:同時施工による費用削減の落とし穴
同時施工の見積では、仮設費削減額に対して安全管理費・監理費の追加が隠れていないかの確認が重要で、総工事費が本当に削減されているか項目別の根拠を確認する必要があります。
「同時施工で20%削減」というフレーズだけを見て契約してしまうと、後になって「思ったほど安くならなかった」となる事例が少なくありません。現場を見てきた経験から言えば、削減項目と増加項目を突き合わせて総額で判断する視点が欠かせません。とくに現場管理費と安全管理費は、業者ごとに算出基準がまったく異なるため、金額の妥当性を業者に説明させることが有効です。
また、廃棄物処理費は搬出方法によって数十万円単位で変動します。一時保管して一括搬出する場合と、毎日少量ずつ搬出する場合では、ダンプの延べ台数と誘導員の人日数が大きく異なり、機械費・人件費の差が最終見積に反映されます。
見積項目「現場管理費」の内訳確認
同時施工では現場所長の専任化、安全監視員の増員、朝礼での作業調整時間の増加といった要素があります。「現場管理費が20%削減」と見積に書かれていても、別項目に「安全対策強化費」「複合工程調整費」といった名目が追加され、結局プラスマイナスゼロというケースもあります。相談の場でよく見られるパターンとして、業者ごとに項目の切り分けが異なり比較困難になる事例があるため、書面で「なぜこの費用か」の根拠を求めることをおすすめします。
廃棄物処理と搬出スケジュールの費用差
同時施工の場合、解体廃棄物を一時保管してから搬出する方式では、スペース賃借料や後日の運搬手配コストが追加されます。一方で毎日搬出する方式にすると、ダンプ運行日数と重機稼働日数が増え、機械費・輸送費が積み上がります。見積段階で「搬出計画」を確認し、廃棄物の総トン数×処分単価に加えて、運搬回数・保管日数まで含めた総額で比較することが重要です。「トン単価だけ安い」見積は、運搬回数で逆転することがよくあります。
費用を抑えるコツ:同時施工の現場マネジメントと業者手配
解体と基礎工を一括発注すれば3〜5%程度の総合調整費を削減できる一方、分離発注なら各業者の競争で価格を抑えられ、工程重複期間の重機シェアで機械費を20〜25%削減できる可能性があります。
同時施工の費用効率は、業者手配の方法で大きく変わります。ゼネコン等が解体と基礎工を一括で請け負う「一括発注」と、解体業者と基礎工事業者を施主が別々に契約する「分離発注」では、それぞれメリット・デメリットがあり、工事規模や施主側の管理能力に応じた選択が必要です。
現場を見てきた経験から言えば、300万円を超える解体工事では、分離発注で相見積を取ったほうが結果的に総額を抑えられるケースが多い印象です。ただし工程調整の手間は施主側に発生するため、日程管理を担える体制があることが前提になります。より詳しい施工方針や見積の考え方については、業務内容・施工事例はこちらを参考にしてください。
一括発注vs分離発注:費用効率の比較と選択基準
一括発注は総合調整が簡単で、責任の所在も明確です。ただし1社の見積に依存するため、価格の妥当性を検証しにくいという弱点があります。分離発注では競争原理が働き、価格面で有利になる反面、日程調整・安全管理・近隣対応の一元化を施主側で担う必要があります。目安として、工事総額300万円以上の規模なら分離発注で相見積を取り、工程調整は建築士や工事監理者に委託する方式が費用効率の面で有利になりやすいです。
重機リースと協力金の活用で機械費を圧縮する
解体用の油圧ショベル(小旋回)と基礎工用のバックホーを同じリース会社から同一期間で借りると、月額割引や長期契約割引が適用される場合が多く、単発リースに比べて機械費を10〜15%程度抑えられることがあります。また地域の同業者間で重機を融通し合う仕組みを持つ業者に依頼できると、稼働待機期間のコストが減り、結果として見積総額に反映されます。専門的な観点から重要なのは、重機の型式・アタッチメントの互換性を事前に確認し、解体と基礎工で使い回せる構成にしておくことです。
契約前に確認すべき安全管理と責任分界点
同時施工の契約では、解体業者と基礎工事業者の間に日程・安全・近隣対応の責任分界点を明確に定め、監理者の権限と保険適用範囲を書面で確認することが不可欠です。
同時施工で最もトラブルになりやすいのが、「誰が現場を仕切るのか」という点です。解体業者と基礎工事業者が別会社の場合、朝礼を誰が主催するか、天候不良時の作業中止を誰が判断するか、近隣からの苦情窓口はどちらかといった事項が曖昧なまま着工すると、事故や近隣トラブルが起きた際に責任の押し付け合いが発生します。
これまで対応したお客様の中で、契約書に責任分界点の記載がなく、廃材が基礎の型枠を損傷した際にどちらの保険で補償するかで数週間もめた事例があります。契約書段階で以下の3項目を明確にしておくことが、リスク管理の基本です。
| 確認項目 | 確認内容 | リスク例 |
|---|---|---|
| 責任分界点 | どちらが現場統括か | 安全事故時の責任押し付け |
| 保険適用範囲 | 労災・賠償で両工程を網羅 | 廃材が型枠を破損した際の補償 |
| 近隣対応 | 苦情時の一次窓口・時間規制 | 未共有の作業でトラブル発生 |
現場統括者の権限と日程調整の意思決定ルール
「解体業者主導」か「基礎工事業者主導」かを契約書で明示することが第一歩です。天候不良で工程が遅れた際、責任転嫁が起きないよう、朝礼時の作業指示系統、緊急時の作業中止判断者、日程変更時の合意プロセスを事前に文書化しておきます。工事監理者を第三者として立てる場合は、その権限範囲と報酬体系も併せて契約に盛り込むことが望ましいです。
労災保険と損害保険の加入確認、責任限度額の設定
同時施工では「どの時点から基礎工事業者の保険適用範囲になるのか」が曖昧になりがちです。とくに廃棄物が基礎工事中の型枠や鉄筋を損傷した場合、どちらの賠償責任保険で補償するかを事前に取り決めておくべきです。契約段階で両業者から保険証券の写しを提出させ、補償限度額と免責事項を確認する運用が有効です。同時施工のご相談やお見積りは、お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. 敷地が100坪以下でも同時施工は可能ですか
A. 難しいケースが多いです。廃棄物の一時保管スペースが確保できず毎日搬出が必要になり、ダンプ運行と誘導員の人件費が増えて、機械費削減のメリットが打ち消されやすくなります。多くの場合、段階的施工のほうが総額で有利です。
Q. 工期短縮で本当に費用が20〜30%削減されますか
A. 仮設費は概ね20〜30%削減されますが、安全管理費や監理費が増えるため、総工事費ベースでの削減は5〜10%程度に収まることが多いです。見積の各項目で増減額を書面で確認することをおすすめします。
Q. 解体と基礎工を別業者に頼む場合、日程調整の責任者は誰ですか
A. 施主または工事監理者(建築士・ゼネコン等)が調整役を担うのが一般的です。契約書に工程表の承認プロセスと変更時の合意手順を明記し、朝礼を誰が主催するかまで決めておくと、責任の空白が生まれにくくなります。
この記事を書いた理由
著者 – 有限会社泰斗
これまでお客様からよくいただくご相談として、建て替え計画で工期と費用の両立に悩まれているケースがあります。解体と基礎工事の同時施工は有効な選択肢ですが、条件次第でメリットが消えることもあり、判断材料が不足しているまま契約に進むと後悔につながりやすい領域です。
この記事が、木造家屋の建て替えを検討される皆様にとって、見積書の読み解きと業者選定の一助となれば幸いです。個別の現場条件についてもお気軽にご相談ください。
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